日本や海外で英語を勉強していると、どこかの段階で耳にするか言われる可能性が高いのが次のようなナゾの理論です。
日本人は完璧主義でミスを恐れるから英語を話せない
日本人はシャイ(恥ずかしがりや)だから英語を話せない
これ、本当ですか?
傾向としてネイティブスピーカーの英会話講師がよく言います。日本人の留学経験者や英語教師でも言う人がいます。
まるで日本人の国民性が原因で英語が話せないといわれているようですが私としてはそんな暴論はとうてい受けいれられません。
完璧な英語で話そうなんて思っていない
日本人で普通に12歳から英語教育を受けたひとなら、誰もが最初は全く話せない状態だったはずですよね。そこからいざ、英語を話すとなると高い壁をこえる必要があります。
例えば基礎の文法やリーディング、単語暗記、簡単な英作文まで終えたところで英会話の授業を受け始めるとしましょう。英会話は超初心者というレベルです。
「わたしは昨日映画を友達と観に行きました。」
と英語で言いたいとすると
I(わたし)、という主語はおそらくすんなり出てきますね。
問題はその次です。
I…(えー、映画、じゃなくて行った、が先だからgo…いや昨日のことだからwentか)
I…went…(movie、watch movieかな、to see movieかな)
という感じで頭の中で文を組み立てつつ話しますよね。
もちろん、膨大な英語例文を頭に叩きこんでいてその中からサラッと
I went to see a movie with my friend yesterday.
と引き出せるということなら話は違いますが。(でも、そんな風に自分の中に取り込み済みデータから英文をすっと出せるなら既に英会話の初心者ではありません。)
あくまで英語をしゃべることに慣れていない初心者についていえば、とにかく自分が言いたいことを英語でスッと瞬間で出てこないという問題があるはずです。
この時に頭の中でああでもない、こうでもないという迷いや葛藤があります。
完璧に話さなければ、とか間違ったら恥ずかしい、なんてグダグダ思っている余裕はありません。とにかく必死で英文を組み立てようとしないといけない。単語はなんだったか思い出さないといけない。
英語を勉強中の外国人が、そもそも間違えることなく英語を話せるわけないですよね。そんなこと誰だってわかっていると思います。
英語を話す時に最も大変なこと、それは日本人にとって不自然きわまりない語順です
主語の次に動詞が来る→ 私(I) 行きました(went)
という語順が、まず日本語の思考回路だとありえない。
主語「私」を言ってから、どこへ、誰と、を続けるのが自然です。「行きました」はどう考えたって日本語だと最後にきます。
この英語と日本語の語順がダイナミックに違うという点がものすごく大きい。
主語、動詞、の順でなかなか素早くでてこないんです。何とか主語を言い、動詞が出てきてもその後に何をつなげていくかをまた考えないといけない。
英語と日本語の言葉の仕組みは大きく違います。そのことを多くのネィティブスピーカーの英会話教師は知りません。
日本で英会話講師をしている人も、カタコトの日本語を話せるだけで正式に日本語を勉強したことがある人は少ないです。
単にネイティブスピーカーであるだけで日本で英語を教えている、という人が多いのも現実です。
もちろん、正式に英語を外国人に教えるための勉強をしたネイティブスピーカーの教師います。
しかし世界的に主流の英語教授法(TESOL)は、英語と仕組みが全く違う日本語を話す日本人を想定して確立されたものではありません。
なぜ日本人が英語を話そうとした時に、つっかえつっかえで沈黙しがちなのかその理由を理解できないのも無理はないでしょう。
例えば同じ英語レベルだったとしてもフランス人やドイツ人の方が英語をスラスラ話せたりします。それは彼らが間違いを恐れていないから、シャイではないから日本人より話せるということではありません。
フランス語やドイツ語の構造が英語と似ているから、彼らは日本人ほど英文を組み立てる時に辛い思いをしなくてすむからです。
わたしが留学していた時に台湾人留学生たちと仲良くしていたのですが、彼らの英会話力も高いものでした。
そして中国語は西洋語ではありませんが、語順が英語と似ています。主語の次に動詞がくるのです。主語→動詞の語順は彼らにとっては自然なものなんでしょうね。
アメリカの大学の授業で発言できなかったころの話
なにせ英会話については全く事前に準備していなかったため、留学時代にクラスのディスカッションでは積極的に発言できませんでした。課題のリーディングやレポートは徹夜で頑張ったりして乗り切りましたが、英語で自分の意見をスラスラ言えるようにはなかなか到達できなかったんです。
自分が言いたいことがスッとは英語で出てこないし、クラスメイトの英語もディスカッションになるとふにゃふにゃ何を言ってるのかわからない。
これはもう東洋の神秘?ってな感じで微笑みながら教室に座ってるしかないんだろうなと思いました。
そんなある日、クラスの担当教授と話す機会がありました。アメリカの大学ではオフィスアワーという生徒が教授に相談できる時間を週に何時間か設けてくれています。そのオフィスアワーに教授のオフィスを訪ねた時のことです。
「君はレポートではすばらしい議論を論理的に書いているけど、授業では静かだね。どんどん思っていることを発言してほしい。日本人がシャイなのは知っているが、ここはアメリカだからね」
「…(はぁ、でたよ日本人はシャイ説が)」
「それにレポートを読む限り君の英語は問題ないんだから、間違いを恐れる必要ないんだよ」
「…間違えるのが怖くて発言できないんじゃないです。ミスを恐れていたらわたしはアメリカで何もできません。レポートも書けません。」
「そうなの?じゃぁどうして授業中に黙っているのかな」
「まずクラスのみんながしゃべり出すと内容に追いつけなくなります。先生の講義はちゃんと聞き取れて理解しています。でも学生の話し方とか使うスラングのせいかもしれませんが、とにかく彼らのトークがわかりづらいです。」
「なるほど」
「そして、なんとか頑張ってこういう内容かなと見当をつけて自分の意見を英語で組み立てようとしているうちに次の議題にいってしまいます。いまの状況はこんな感じです。まだ素早く英語で言葉が出てくる状態ではないので発言が難しい。レポートを書くときは辞書を片手にああでもない、こうでもないと悩みながら時間をかけて英文を書いています。」
「そういうことだったのか。説明してくれてありがとう。君の状況はよく理解できたから、心配せずリラックスしてクラスに参加してほしい。」
と最後には理解してもらえました。
ちなみに授業中に黙りがちなわたしに対してアメリカの大学教授のリアクションは2パターンありました。
パターン1「恥ずかしがらなくていいんだよ。間違ってもいいんだよ。しゃべろう?」
パターン2「授業で発言するのが難しいのわかるよ。だって君は外国語で勉強してるんだからね。気にしなくていいよ。頑張ってるのはわかっている」
日本人は「〇〇〇だから英語が話せない」という諸説はとりあえず無視してOK
日本人はミスをしたくないと思うから英語が話せない、恥ずかしがり屋だから英語が話せないというステレオタイプの偏見には耳を貸さない方がいいと思います。
こういった説が仮に本当だとして、英語をスムーズに話せなかった人が「ミスしてもいいのか!まじか!」と悟った瞬間にペラペラ話せるようになるでしょうか。
恥ずかしがってるからダメなんだ、間違えることを恐れているから英語を話せないんだ、と自分を叱咤激励して暗示にかければあら不思議、英語がスラスラ出てくるようになりました、となるのでしょうか。
学習者の性質や考え方が問題で英語を話せるようにならない、ということ安易に言ってほしくありません。
英語が話せるようになりたいと思っている日本人学習者、特に真面目な人は自分を責めたりするでしょう。
「そうか、自分は人前で間違えたくないとプライドが高いからダメなのか」
「そうか、自分が内向的すぎてダメなのか」
などと英会話を勉強している人に思わせてなんのメリットがあるのか私にはわかりません。
日本人であろうとなかろうと外向的な人、おしゃべりな人、積極的な人は確かに英会話の授業などであまり沈黙することはないでしょう。そして
I movie yesterday!
のようなデタラメな文を臆することなく話すでしょう。それを先生に訂正してもらえるので「勉強になる」というのも事実です。
だからといって話そうとしてもすぐ沈黙してしまう、英会話の初心者が悪いわけではありません。ある程度時間はかかりますが英語の語順での思考回路ができれば、スッと英語が出てくるようになります。その人が完璧主義者であっても内気でシャイであっても関係ありません。
最後に、英語の語順で考えるということ
返り読みをせず前から英語の語順のまま読んでいくスラッシュリーディングという手法があります。これは英語での思考回路をつくるうえで大変効果的なので興味のある方はググって調べて挑戦してみてください。
注意点としては、このスラッシュリーディングで勉強する前提として基礎の文法や構文はマスターしている必要があります。
基礎力がない状態でスラッシュリーディングをしてもあまり意味がないので気をつけましょう。
英語の語順のまま英文を理解できるようになれば、英語を聞いた時もそのまますんなり理解できるようになり、話す時も自然に英語の語順で文がでてくるようになります。
スラッシュリーディングについては詳しく解説されているサイトや教材、通信講座などがたくさんあるようです。また別記事で紹介していく予定です。