もう15年以上前になるが、仕事で通訳を頼まれることが多くなったため通訳学校に1年半ぐらい通っていた。そこでシャドーイング、リプロダクション、サイトトランスレーションなどの独特なトレーニングを経験した。
それがここ数年、こういった通訳学校で行われていたメソッドを一般の英語学習に応用することがトレンドになってきたようだ。応用言語学や第2言語教授法などの理論も取り入れた、洗練された最新のトレーニングを提供することをうたっている英会話学校、Toeic対策講座も散見される。
そのようなスクールでは判で押したように「シャドーイング」に力を入れていて、担当講師が「シャドーイングの添削」をしたりするという。通訳になるための訓練としてシャドーイングをガッツリやっていたことがある私からすると少し違和感があり、英語力を上げるためのメソッドとして本当に有効なのかを考察したい。
最初に結論
シャドーイングが有効なのは一定の英語力を持つ学習者に限られると思う。
初級から中級レベル(Toeicでいうと500から600ぐらいまで、英検でいうと準2級から2級まで)の人がシャドーイングをメインとした勉強をするのは、ぶっちゃけコスパが悪い。
初中級者はシャドーイングしても意味がない、ということではなくてシャドーイングにかけた時間に対して得られるものが少ないということだ。
以下、順に説明していこう。
シャドーイングとは何か
シャドーイングは、英語を聴きながら少し遅れて影(shadow)のようについていき音声をそのまま復唱するトレーニングだ。
簡単な文で説明すると下のように①が聞こえてきた英文で、②が追いかけてシャドーイングをするタイミングになる。
①There is a big park near my house.
②There is a big park near my house.
通訳学校ではCNNやBCCのニュース音声を初見でシャドーイングしていたが、聴きながら話すというのが本当に大変で、途中でついていけなくなり諦めることも多かった。
試しに日本語のニュース音声をシャドーイングしてみたらわかると思うが、母国語で完全に聞き取れていてもシャドーイングするのは至難の技なのだ。
私もこの記事を書くにあたって久しぶりに日本語でやってみたが途中で見失ってしまった。それを外国語でするのがどれだけ困難なことかは想像に難くないだろう。(例であげたシンプルな短文なら別ですよ)
シャドーイングの効果として一般的に言われているのがスピーキングとリスニングの上達、発音やイントネーションが良くなる、ということだ。シャドーイングを強力に薦めているスクールの中にはリーディングや語彙力の強化にも役立つと主張しているところもある。
なぜ初中級者がシャドーイングすることに懐疑的なのか
まずリスニングに関してだが、シャドーイングをしようと思えば本当は聞き取り(リスニング)が既にできている必要がある。リスニングでコケればシャドーイングしようがないからだ。
しかしシャドーイングを取り入れている講座やスクールでは、Toeic400~500点レベルの人達(初めて聞く英語素材を聞き取って即座に復唱できない)にも以下のように方法をアレンジしてシャドーイングを薦めているようである。
- シャドーイング教材を簡単な、ゆっくり読み上げているものにする
- あらかじめ数回聞き、スクリプトを見て不明単語や構文を確認して意味を把握しておく
- その後スクリプトを見ながらシャドーイング
- 慣れてきたらスクリプトを見ずにシャドーイング
上記のように普通にシャドーイングするまでの準備がやたら長い。そのプロセスで英文も単語も覚えられるし発音やイントネーションもよくなるではないか、といわれればその通りではある。
しかし初中級者向けのシャドーイングでは10回、20回、とひたすら繰り返すことが推奨されている。
確かに数回やったところであまり意味はなさそうだ。
となると3分くらいの音声素材として、ゆっくりのスピードで読み上げられているなら200から300ワードぐらいの英文を何十回とシャドーイングすることになる。時間にして1時間ぐらいか。
シャドーイングはひたすら声を出すせいか「やった感」「達成感」があるトレーニングなのでハマる人が多いのは理解できる。
しかし正直その時間がもったいないなぁと感じる。
王道である文法と英単語暗記に時間をかけた方が絶対に効率が良いと思う。
時間が有り余っているのなら話は別だ。英語の勉強に1日5-6時間以上かけることができるという人なら、そのうちの1時間程度をシャドーイングに費やしてもいいかもしれない。
しかし一般的な社会人学習者であれば、忙しい毎日の中から頑張って時間を捻出しなければならない。1日に1-2時間程度しか取れないならシャドーイングよりガンガン英単語を暗記し、文法や構文を一通りマスターした方がいい。
シャドーイングにかける同じ時間で正直倍以上のの英単語を覚えられるし、文法も重要な基礎をさらうことが可能だ。一方でシャドーイングで使用する素材だけで文法を一通り学習しようとすれば、とんでもない量をこなさなければならない。
なんども言いますが、とにかくコスパが悪いんですよ。
初中級レベルの人達に欠けているのはとにかく基礎(文法と語彙)なので、そこをすっ飛ばしてシャドーイングしても、発音やイントネーションが少し良くなるぐらいで根本的な問題が残ったままになってしまう。
発音やイントネーションについても、シャドーイングより前に基本的な発音教本を1冊やった方がどう考えてもいい。
発音記号や口の開け方、舌の位置など説明されていてCD付きの教材はアマゾンで検索すれば山とある。
忙しい社会人でも週末に8-10時間ぐらい捧げれば発音の基礎は一通りマスターできるのだ。
それをしないでシャドーイングをひたすら繰り返すって…どう考えても効率悪くないですか?
聞こえてくる音声を真似て発声するのも効果的かもしれないが、例えば「Vを発音する時には前歯を下唇に乗せて震わせることが重要」という一般的な発音教本に書かれている事実を知らないままでは本質的な力はつかないだろう。
最後に
別に私がシャドーイング嫌いってことではない。
ただ、シャドーイングがそこまで万能ではないと言いたいだけだ。
あと、通訳学校で元々は行われていたトレーニングだから上級者のみに効果がある!というつもりもない。
私が通訳学校で学んでいた時、留学経験なしでも英語の達人で英検1級やToeic連続満点とってるなんて生徒がゴロゴロいた。
その人たちは特別なメソッドで勉強していたわけではなく単語帳を作りコツコツ語彙を1万語以上に増やし文法構文を完璧にマスターしていた。
学校での課題としてシャドーイングはしていたがそれをメインで時間を費やしている人はいなかった。
一方で私はクラスで唯一の長期留学の経験者であったのに英語力は一番低くて、落ちこぼれていた。
その私が当時シャドーイングばっかりしてたんですよ。
なんか英語を声に出すことで「私頑張ってるなぁ」という気持ちになれるという理由で気に入ってしまって。
それに同じ素材を何度も何度もシャドーイングするのは、脳に負荷がかからなくてほかの勉強より絶対的に楽だった。
楽なことに時間を費やして
「今日も頑張ったー!」と充実感に浸っていた。
あの時の私に言いたい。
もっと語彙を増やして文法の曖昧なところを潰していく努力をしないと達人にはなれないよ。
そしてこれから英語を頑張りたい初中級レベルの方にも余計なお節介ながらひとこと
シャドーイングもいいけど基礎力をつける勉強を愚直にした方が効率がコスパがいいですよ。