わたしはアメリカの大学に正規留学する前に全く英語の発音のことを考えていませんでした。
「発音なんて外国人なんだから悪くてもしかたない」
「日本人は発音にコンプレックスを持ちすぎ」
という考えだったんです。
ただし英語独特のイントネーションやリズムはなるべくネイティブスピーカーをまねるようにしていました。正式に勉強したわけではなく、適当にそれっぽくまねしていただけですが。
その結果、アメリカ滞在中のコミュニケーションはどうだったかというと
・大学のクラスメートや教授には特に問題なく通じていた
・銀行やカフェでのやり取りではたまに聞き返されることがあった
・小学生以下の子供には首をかしげられることが多かった
という状況でした。
わたしの発音はVとBやRとLの区別もなくバリバリ「日本人の英語」でした。
それでもおおむね通じていたのは、話し相手が文脈から推測してくれていたからだと思います。
「日本人はRもLも区別せず同じように発音するからRice(米)と言ったつもりでもLice(シラミ)に聞こえて変な顔をされる」
というような話がささやかれていますが、わたしの体験だと教養ある成人のネイティブスピーカーは日本人がRのつもりでLと発音しても頭の中でLからRに変換して理解してくれます。
しかし小学生以下の子供にはわたしのマズイ発音はなかなか通じませんでした。子供なのでやはり文脈からの推測が難しいんでしょうね。
小学校に遊びに行ったときに、たくさんの子供達に取りかこまれて話しかけられたんですがわたしが答えると
「…What did you say?」
と目を見ひらいて悲しげに聞き返されました。おかしいなぁと何回も繰り返すんですが理解してもらえず、最後には子供ががっかりした様子で
「It’s OK」
とあきらめるというパターンが続いてショックでした。
スタバでの注文もつまづきました。Vの発音ができなかったからです。Vは唇を震わせないと本当に通じません。発音について何の知識もなかったので通じない理由がわからず途方にくれました。
バニラ・ラテが大好きだったんですが、絶望的にバニラが通じない。
「バニラ・ラテ、プリーズ」
「ワァーット?らて?」
「イエス、バニラ!」
「…バナナ?」
「ノゥ!バニラ!!」
「…?」
「バニラ!バニーラ!!」←連呼
店員さんにしてみれば VanilaではなくBanilaに聞こえていたでしょうし、
「Banila?新種の果物か?」なんて思っていたかもしれません。
こういった不毛なやり取りを何回か経験してからは、普通のラテを注文するようになりました。
やっぱり発音が悪いんだなぁ、日本でやっておけばよかったなぁと後悔していたある日のことです。
さらに私を落ち込ませる出来事がありました。
ショッピングモールのフードコートでランチのパスタを注文しようと行列に並んでいたときのことです。
すぐ前に4歳か5歳ぐらいの小さな女の子が母親と手をつないで並んでいたんです。
その子がチラッチラッと私の方をふり返るんですね。そしてわたしが右手に持っていた
キーホルダーをみている。
そのキーホルダーはモフモフしたフェイクの毛皮がついているものでした。
「あーこのモフモフに興味があるのかな。しゃべりかけてきそう。どうしよう。こんな小さな子だから私の発音じゃ通じないだろうな…」
とビクビクしていたら、女の子はキーホルダをみながら小さな声でつぶやくように
「ふわふわして可愛いな。わたしこういうの好き。これ何の毛かな。」
と言いました。
はっきりと私に問いかけてきたわけではなかったのですが、
「うう…どうしよう。キツネの毛皮っぽいけどFoxの発音自信ないわ…母親がわたしに質問してくれないかな?そしたら私のマズイ発音でもたぶん理解してくれて、この女の子に説明してもらえるんじゃ」
などと考えていると女の子が母親に
「ねぇママ、これ何の動物の毛皮だと思う?」と尋ねたんです。
わたしに聞いてこなくてよかったやれやれと胸をなでおろしていたら、なんとその母親が
「さぁ、ママにはわからないわ。あなたが自分でこの人(わたし)に聞いてごらんなさい」
と言ったんです。エエーッ!
わからないことは自分で質問しろという、小さな子供にも自立をうながすこのやり方。
アメリカってスゴイですよね。このへんが日本とはまるで違います。
日本だったら子供のかわりに母親が、「これ何ですか?」と聞いてその答えを子供に
「〇〇だってー」と教えたりするのが普通ですよね。
そしてマジかよと驚いているわたしに女の子は勇気をふりしぼって聞いてきました。
女の子「これは何の毛でできていますか?」
わたし「…うーん、わからない…」Well, I don't know…
本当だったら
「たぶん偽物だけどキツネかな?もしよかったらさわってみる?」
と言ってあげたかった。
でも小学校で子供に発音が全然通用しなかったのが
トラウマになって、発音が簡単なフレーズ ”I don’t know…”ですませてしまった。
せっかく頑張ってわたしに質問してきた小さな子どもにそっけない対応をしてしまったことを今でも忘れられません。
それも自分の発音が悪かったのが原因です。
発音矯正をできれば気づいてすぐにしたかったのですが、日々の勉強に追われて余裕がなく結局最後までできませんでした。
外国人なんだから発音が悪くてもしかたがない、というスタンスで何の努力もしないまま留学してしまったことを心から後悔しています。
ネィティブなみに上手くできなくても、なるべく人が聞いてわかりやすい発音ができるに越したことはありません。
聞いている相手が文脈から推測しないといけなかったり、何をいいたいのかわからなくて困惑するようなことは、できるだけ避けたいですよね。
日本語を勉強している外国人でも、まるで日本人かと思うくらいキレイな発音の人となまっていて聞きづらい発音の人がいます。
「ワァターシはラァメーンがスゥきデス」のように。
発音がなまっているからといって気を悪くするわけではないですが、やはりコミュニケーションするうえで相手によけいな負担がかかるのは確かです。
発音をガッツリ練習してから留学したほうが子どもたちともスムーズに交流できて、きっと楽しいですよ。
わたしは帰国して通訳学校に通うようになってから発音のトレーニングを独学で集中してやりました。
独学でもある程度のところまで矯正できますので、ぜひやってみて下さいね。